【第2話】憧れのグレースーツの男の正体

2011年2月(大学1年生・20歳)

反対されると思った家族には内緒

汐留から金沢八景への帰り道。僕は今日初めて見た大人の世界と「学生起業家」との出会いにとても興奮していた。一緒にパーティに来ていた大学の友達であるヒロシも、将来起業を考えていたので僕らはお互いを鼓舞しあった。

「なぁ、ヒロシ。俺たち本当に運が良いよな!まじで人生変わろうとしてね?」

「最高!特に最後の方にやまちゃんが話してたスーツの人めちゃめちゃかっこよかったなー!あの人についていけば、おれも起業できるきがするわ。2月25日めっちゃ楽しみ!」

僕とヒロシは、すでに次のアポイントをスーツの男と決めていた。今日が2月13日だから、2週間後の2月25日までワクワクが止まらない。高校生のときから念願だった起業への第一歩が踏み出せると思うと、地に足がつかないふわふわした感覚だ。

両親が学校の先生である僕にとっては、起業なんて未知の世界であるし理解もされないだろう。きっと、この話も家族にしたら「怪しい人に騙されてるだけだよ」そうやって言われるのは分かっていた。

僕の家族は本当に保守的だ。母は自分が分からないことや見えないことに対しては理解をしようとしなかったし、父は石橋を叩いて、叩いて、叩き割るぐらいの慎重派だったので、僕は今日の出来事をヒロシや信頼できる友達だけに言おうと心に決めていた。

スーツの着こなしは年齢を錯覚させる

品川駅のJR改札口前で、僕とヒロシはスーツの男を待っていた。京急の金沢八景駅から品川駅は乗り換え無しで一本で来れるため、スーツの男が指定した待ち合わせ場所は僕たちにとっても都合が良かった。

「今日はどんな話がきけるのかな?」

「なんか、起業を支援してくれたりするかもよ?」

「うわーーーー!ワクワクするーー!そういえば、あの人なんて名前だっけ?」

「あぁ。山川さんね!東洋大学の3年生なんだって。学生に見えないよなー」

そんなやり取りをしながら僕とヒロシは山川さんを待った。

「おまたせー!それじゃあ、近くのカフェに行こっか!」

10分ほど待つと山川さんが爽やかな笑顔とともにこちらに歩いてきた。

前回と同じく、グレーのスーツを着用し、磨かれた革靴に、ジェルで固められた髪。就活生が持つようなものではなく、革製のかっこいいビジネスバッグ。

そのどれもが僕とヒロシとは違っていて、大学の中で自分を「意識高い系」と思っていた僕はその姿をみただけで圧倒された。僕もヒロシも浪人をしていたので、学年的には2年生と同じ年齢だから3年生の山川さんとは1歳しか違わない。

けれど、僕の感覚としては20歳と30歳ぐらいの年齢差があるなと思えるぐらい山川さんがかっこよく見えた。僕も今日をきっかけに早くかっこいい学生起業家になりたい。その思いがまた強くなってきた。

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写真はイメージ

「いらっしゃいませ〜。3名様ですか?こちらの席へどうぞ〜」

僕とヒロシ、山川さんは奥のソファー席へと座った。緊張する僕とヒロシだったが、山川さんがアイスブレイクをして緊張を解してくれた。

やまもとくんは何かサークルとか入ってるのかい?」

「はい!バレー部と軽音楽部に入ってます!」

「おぉー!体育会系に入ってるんだ!大学なのにすごいね〜!」

「いえいえ!週に3回なので、これは楽だし就活に有利かなと思って」

「就職も考えているんだね。」

「そうなんです!就職してから起業したいな!と思っていたんですけど、最近大学がつまらなくて……。だから、大学在学中から起業してみたいな!山川さんみたいにかっこよくなりたいな!と思って、今日は楽しみにしてました!」

「ははは!それはありがとう。 やまもとくんだったらきっとなれるよ。」

「はい!25歳までに貯金5億円をもっているのが夢なんです!そういえば山川さんはどうやって起業したんですか?」

「僕は起業しているというより、起業準備中かな!でも、まさに今勉強していることをやまもとくんとヒロシくんに今日は教えてあげるね!」

「えぇ〜!良いんですか!?ありがとうございます!宜しくおねがいします!」

そうやって山川さんは、高そうな手帳と高そうなボールペンを使って図をかきながら僕とヒロシに説明をしてくれた。

持っているものが全てかっこよく見えた

「いいかい?やまもとくん、起業に必要なものは何だと思う?それはね……」

僕とヒロシはこの後に続いてくる説明が、まさかあんなことにつながってくるとは思っても見なかった。僕はなぜ山川さんが、20歳の大学生相手にこんなにも親切にしてくれるのかがとても不思議だった。

世の中捨てたもんじゃない。良い人はたくさんいるんだなとそう思った。


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