【第3話】ローリスク・ミドルリターンのビジネスという甘い言葉

2011年2月(大学1年生・20歳)

山川さんは、非常にわかりやすい説明で僕とヒロシに“起業するために必要なこと”を教えてくれた。

「やまもとくん、起業するためにはまず何が必要なのか分かるかい?」

「えーと、やっぱりお金ですかね?」

「そうだね!お金も大事だね!でも、お金以外にも実は人脈・スキルも必要じゃないかい?

お金があって、スキルがあっても人脈がなければ仕事は入ってこないだろうし、お金があって人脈があっても、それを実現するだけのスキルがなければ実行できないよね。」

「たしかにそうですね!全部必要ですね!難しそーーー!」

山川さんは、「お金・人脈・スキル」これが起業のために必要なことだと教えてくれた。何が正しくて何が正しくないかなんて分からない。

自分にとっての新しい情報だから、僕はワクワクしながら聞いた。

「そう、全部必要なんだよ。でもいきなり全部手に入れるのは難しいよね。今まで何もなかったところから始めるってなるとどれも時間がかかる。だから、まずは1つを手に入れるところから準備しようってわけさ。」

「いきなり全部手に入れるのではなくて、1つずつ着実にってことですね!」

「そう!物分りがよくて、やまもとくんはセンスがいいねー!」

「ありがとうございます!(照)」

僕は山川さんから、センスが良いと言われたことがとても嬉しかった。

僕は、意識が高いからこうやって、大学のある金沢八景駅からわざわざ品川まで交通費を使ってきている。(親の仕送りだけど)

そして起業に繋がる話を勉強している。

その上でセンスが良いとは……。これは、将来大金持ちになれるかもしれないかも?と思い始めていた。

じゃあまず、何からするのが良いんでしょうか?

「僕たちはまず『何を始めたとしても大丈夫なお金』を準備しよう!と言ってるんだ」

僕は、山川さんの言う「僕たち」が誰のことを指しているかわからなかった。そして誰に対して言ってるかも分からなかった。だけど、僕に優しく教えてくれている。それだけは分かった。

「なるほどお金ですか!お金を作るってとっても難しい気がします……。最近始めた居酒屋のバイトでも月に5万円ぐらいしか稼げない。笑」

「そうだね!大学生がお金を稼ごうと思ったらアルバイトしかないから、中々起業をするために必要なお金を貯めるってなると難しいよね。

でも、やまもとくんはまだどんな分野で起業したいっていうのはあんまり固まっていないでしょ?」

「はい!まだどんな分野で起業したいとかはないんですが、とにかく社長になって金持ちになりたいんです。笑」

僕は特にやりたい事業があったわけでもないし、興味のある分野があるわけでもなかった。とにかく社長って言えるようになることがかっこ良かったし、起業した!と周りに自慢したかった。

「良い野望だと思うよ!笑 だって、世の中の成果を出している社長さんも最初はそんな感じからスタートしてるからさ。」

「そうなんですね!じゃあ、僕も将来の見込みがありってことですね!笑」

「めちゃめちゃ大きな会社を作っちゃったりしてるかもね!だから、まだ起業したい分野が決まっていないんだったらどんな人脈が良いかとか、どんなスキルがあれば良いかとか分からなくない?」

「そうですね〜。全く何を勉強したら良いのかもわからないんですよね〜。」

人に聞く前に自分で勉強しろという話だが、目の前で山川さんから聞く情報が僕にとっては目新しい情報であり、新鮮なものだった。山川さんは僕らのために続けた。

「どんな事業をやるにもお金は必要になってくる。じゃあ、この大学生のうちにどの道にでも行けるようにしよう!というのが大事なんだ。」

「納得です!もっとアルバイトを増やしたら良いんですかね?」

「それも一つの方法だよね!でもさっきやまもとくんが言ってたように、アルバイトで稼げる金額には限界がある。なぜならば、自分の時間を売ってるからなんだ。例えば、やまもとくんが時給900円で雇われていたとしたら、月間で稼げる金額って最高いくらかな?」

「そうですねー!大学にも行かないといけないし、部活もあるし、そんなにシフトも入れないから10万いくかいかないか……。」

「そうなんだよ。自分が働く時間によって、稼げる金額が限られてしまうのがアルバイトなんだ。

考えてみて。もし、やまもとくんが30日間で24時間1時間も休まずに時給900円で稼ごうとしても、900円×24時間×30日間=648000円が限界。

一睡もせずに働くなんて到底無理だし、休みもなかったら何のためにお金を稼いでいるかわからないよね。笑

「たしかにぃぃぃぃ!山川さん、めちゃ核心を突きますね!」

山川さんの、当たり前なんだけれど冷静に考えると納得できる話に僕はウンウンと相づちを打ちながら聞いていた。

でも、自分が働く時間が少なくてもドンドン稼げる金額が増えていったら嬉しくない?」

「え!そんなことあるんですか!?もしそうなったら嬉しいです!」

「嬉しいよね!それがまさに、『ビジネス』なんだよ!自分がやればやるだけ稼ぐことができる。」

「うぉぉぉぉぉ!『ビジネス』ってすげぇぇぇ!!!可能性が広がってワクワクしてきました!!」

「やっぱり、起業家の醍醐味はお金をたくさん稼げるところだからね!」

これだこれだ。この感じを僕は求めていたんだ。最初に僕が、汐留のタワーマンションで勇気を出して声をかけたからこそ繋がったこの感じ。やっぱり、ついてる、選ばれた男なんだろうか?僕は。笑

お金のことで頭がいっぱいだった僕は、なんだか稼げそうな匂いのする話にひょいひょいと飛びついていった。

「じゃあ、どうやってお金稼ぐんですか!?」

「お金を稼ぐ方法っていっぱいあるんだけど、稼ごうと思ったら当然リスクがある。でも、僕はリスクをできるだけ抑えてお金を稼ぐことができる方法を知ってるんだ。つまり、ローリスクミドルリターン。

莫大に稼げるわけではないけれど、最初の起業資金をためるためだったらちょうどよいぐらい。でもアルバイトで稼ぐなんかより全然良いビジネス。聞いてみたい?」

「はい!聞いてみたいです!」

「じゃあ今から説明するね。お金をローリスク・ミドルリターンで稼ぐ方法、それは……」

山川さんのわかりやすい説明に僕とヒロシは、ずっと耳を傾けていた。かっこよいボールペンで、おしゃれな革の手帳に書かれる図と文字。

普段来ることのない、シャレオツなカフェで起業するための話を聞いている。それだけで僕の心はとても満たされていた。あぁ〜まじで自分、進んでるわ〜と。

しかし、自分がどの方向へ進んでいるかなんてこのときは知る由もなかった。

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